S・H（23歳）

体育大学に入学後、膝のケガでプロアスリートの夢は諦めつつ、将来俳優として活躍したいという思いを持ちながらも、現実的には生活費が心配の種でした。両親は離婚していて裕福な家庭ではないため仕送りもなく、生活のためにバイトを掛け持ちしていたため単位もギリギリで、短時間で高収入を稼げるバイトをしなければならないと考えていました。高額バイトを探すうちに出会った予想もしなかった仕事が「出張ホスト」でした。

出張ホストの仕事を始めることにした理由

ある日、地元の友人から「ちょっと変わったアルバイトがあるよ」と聞いたのがきっかけでした。出張ホストという言葉は正直なところ、最初はあまりピンときませんでした。少し勇気がいる仕事だと思ったからです。しかし、生活費を稼がなければならないという現実があったので挑戦することにしました。

面接を受けてみると、意外にも仕事自体はとてもシンプルで、特別な技術が求められるわけではないということが分かりました。お客様とお酒を飲んだり、食事を一緒に楽しんだりしながら、会話を楽しむのがメイン。私は普段から人と話すことが得意で、コミュニケーションを大切にしていたので、この仕事に向いているかもしれないと感じました。最初は緊張もありましたが、次第に慣れ、いろいろな人と接する中で、新しい視点や考え方に触れることができました。特に、普段は体育会系の世界で生きてきた自分には、こうした経験が新鮮であり、日々の生活の中に刺激を与えてくれました。

予期しなかった転機

入店して1年くらい経ったある日、店舗内での接客中に、長年の常連のお客様が私に話しかけてきました。「俳優を目指しているんだって？」と。それまで自分の夢を仕事の中で語ることはほとんどありませんでしたが、どうやらマネージャーから聞いていたようです。

驚きながらも「実はそうなんです」と答えると、そのお客様は嬉しそうに続けました。「実は私、映画業界に関わっている人と知り合いが多いから、もしよかったら、オーディションを紹介できるかもしれない」と言ってくれたのです。正直、最初は信じられませんでした。出張ホストの仕事をしている自分が、まさか俳優デビューのチャンスを得られるなんて想像もしていなかったからです。その後、そのお客様のサポートでオーディションを受けることになりました。大学生活が忙しく、俳優としての勉強は本格的にしていたわけではありませんが、映画の世界に触れることができるチャンスだと思い、全力で取り組みました。結果、なんとオーディションに合格し、俳優デビューが決まったのです。

俳優としてのスタート

デビュー当初は、映画やドラマの中でほんの少しの役どころからスタートしました。出演時間も短く、セリフもないものでしたが、それでも私は心から嬉しかったです。自分がずっと夢見ていた世界に、こうして少しずつ足を踏み入れられたことが信じられませんでした。

最初は、舞台裏での緊張感やプロの俳優たちの仕事の流れについていくのに必死でしたが、少しずつ演技のコツを掴んでいきました。その中で、自分がこれまで経験してきたことが役立っていることに気づきました。出張ホストの仕事で培った「相手の気持ちを汲み取る力」や「どんな状況でも柔軟に対応する力」、そして「人と接する楽しさ」が、俳優としての仕事にも大いに役立ったのです。

出張ホストで得たこと

俳優の仕事は決して楽ではありませんが、出張ホストの経験があったおかげで、人との接し方や人間関係の構築が苦ではなくなったように感じます。お客様との会話の中で培ったリスニング力や、どんな状況でも自分を見失わないことが、演技にも活かされています。また、出張ホストとしての仕事をしていたからこそ、いろいろな人との出会いがあり、視野が広がったことが大きな収穫でした。人間観察をして、演技の際に役立つ感覚を養うことができたことも、今後の俳優としての成長に繋がると感じています。

これからの目標

大学を卒業し、今では、ちょい役ながらもドラマに出演する機会も増えてきましたが、まだまだ未熟な部分が多いと感じています。出張ホストでの経験を活かしながら、もっと多くの人々に感動を与えられる俳優になりたいと強く思っています。これからも努力を続け、演技力を磨き、俳優としての幅を広げていきたいと思います。

そして、私のように夢を持ちながらも生活に悩む学生たちに言いたいのは、「どんな経験も無駄にはならない」ということです。どんな仕事をしている時でも、それが自分の成長に繋がる一歩になることがある。出張ホストとしての経験が、私にとって俳優デビューのきっかけを作ってくれたように、どんな仕事も自分にとって意味のあるものにできるということを忘れないでほしいと思います。